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第5節 DCF法の適用等
証券化対象不動産の鑑定評価における収益価格を求めるに当たっては、DCF法を適用しなければならない。
この場合において、併せて直接還元法を適用することにより検証を行うことが適切である。
Ⅰ DCF法の適用過程等の明確化
(1)DCF法の適用に当たっては、DCF法による収益価格を求める際に活用する資料を次に定める区分に応じて、その妥当性や判断の根拠等を鑑定評価報告書に記載しなければならない。
① 依頼者から入手した対象不動産に係る収益又は費用の額その他の資料をそのまま活用する場合
② 依頼者から入手した対象不動産に係る収益又は費用の額その他の資料に修正等を加える場合
③ 自らが入手した対象不動産に係る収益又は費用の額その他の資料を活用する場合
(2)DCF法による収益価格を求める場合に当たっては、最終還元利回り、割引率、収益及び費用の将来予測等査定した個々の項目等に関する説明に加え、それらを採用して収益価格を求める過程及びその理由について、経済事情の変動の可能性、具体的に検証した事例及び論理的な整合性等を明確にしつつ、鑑定評価報告書に記載しなければならない。
また、複数の不動産鑑定士が共同して複数の証券化対象不動産の鑑定評価を行う場合にあっては、DCF法の適用において活用する最終還元利回り、割引率、収益及び費用の将来予測等について対象不動産相互間の論理的な整合性を図らなければならない。
(3)鑑定評価報告書には、DCF法で査定した収益価格(直接還元法による検証を含む。)と原価法及び取引事例比較法等で求めた試算価格との関連について明確にしつつ、鑑定評価額を決定した理由について記載しなければならない。
(4)DCF法の適用については、今後、さらなる精緻化に向けて自己研鑽に努めることにより、説明責任の向上を図る必要がある。
Ⅱ DCF法の収益費用項目の統一等
(1)DCF法の適用により収益価格を求めるに当たっては、証券化対象不動産に係る収益又は費用の額につき、連続する複数の期間ごとに、次の表の項目(以下「収益費用項目」という。)に区分して鑑定評価報告書に記載しなければならない(収益費用項目ごとに、記載した数値の積算内訳等を付記するものとする)。
この場合において、同表の項目の欄に掲げる項目の定義は、それぞれ同表の定義の欄に掲げる定義のとおりとする。
項目 | 定義 |
---|---|
貸室賃料収入 | 対象不動産の全部又は貸室部分について賃貸又は運営委託をすることにより経常的に得られる収入(満室想定) |
共益費収入 | 対象不動産の維持管理・運営において経常的に要する費用(電気・水道・ガス・地域冷暖房熱源等に要する費用を含む)のうち、共用部分に係るものとして賃借人との契約により徴収する収入(満室想定) |
水道光熱費収入 | 対象不動産の運営において電気・水道・ガス・地域冷暖房熱源等に要する費用のうち、貸室部分に係るものとして賃借人との契約により徴収する収入(満室想定) |
駐車場収入 | 対象不動産に附属する駐車場をテナント等に賃貸することによって得られる収入及び駐車場を時間貸しすることによって得られる収入 |
その他収入 | その他看板、アンテナ、自動販売機等の施設設置料、礼金・更新料等の返還を要しない一時金等の収入 |
空室等損失 | 各収入について空室や入替期間等の発生予測に基づく減少分 |
貸倒れ損失 | 各収入について貸倒れの発生予測に基づく減少分 |
維持管理費 | 建物・設備管理、保安警備、清掃等対象不動産の維持・管理のために経常的に要する費用 |
水道光熱費 | 対象不動産の運営において電気・水道・ガス・地域冷暖房熱源等に要する費用 |
修繕費 | 対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち当該建物、設備等の通常の維持管理のため、又は一部がき損した建物、設備等につきその原状を回復するために経常的に要する費用 |
プロパティマネジメントフィー | 対象不動産の管理業務に係る経費 |
テナント募集費用等 | 新規テナントの募集に際して行われる仲介業務や広告宣伝等に要する費用及びテナントの賃貸借契約の更新や再契約業務に要する費用等 |
公租公課 | 固定資産税(土地・建物・償却資産)、都市計画税(土地・建物) |
損害保険料 | 対象不動産及び附属設備に係る火災保険、対象不動産の欠陥や管理上の事故による第三者等の損害を担保する賠償責任保険等の料金 |
その他費用 | その他支払地代、道路占用使用料等の費用 |
運営純収益 | 運営収益から運営費用を控除して得た額 |
一時金の運用益 | 預り金的性格を有する保証金等の運用益 |
資本的支出 | 対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち当該建物、設備等の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する支出 |
純収益 | 運営純収益に一時金の運用益を加算し資本的支出を控除した額 |
(2)DCF法の適用により収益価格を求めるに当たっては、収益費用項目及びその定義について依頼者に提示・説明した上で必要な資料を入手するとともに、収益費用項目ごとに定められた定義に該当していることを確認しなければならない。
(3)DCF法を適用する際の鑑定評価報告書の様式の例は、別表2のとおりとする。証券化対象不動産の用途、類型等に応じて、実務面での適合を工夫する場合は、同表2に必要な修正を加えるものとする。
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