- Ⅳ 収益還元法
- 1.意義
- 2.収益価格を求める方法
- 3.適用方法
- ① 純収益の意義
- ② 純収益の算定
- ア 総収益の算定及び留意点
- (ア)対象不動産が賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産である場合
- (イ)対象不動産が更地である場合において、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定する場合
- イ 総費用の算定及び留意点
- ① 還元利回り及び割引率の意義
- ② 還元利回り及び割引率の算定
- ア 還元利回り及び割引率を求める際の留意点
- イ 還元利回りを求める方法
- (ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
- (イ)借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法
- (ウ)土地と建物に係る還元利回りから求める方法
- (エ)割引率との関係から求める方法
- ウ 割引率を求める方法
- (ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
- (イ)借入金と自己資金に係る割引率から求める方法
- (ウ)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
本文
Ⅳ 収益還元法
1.意義
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を収益価格という。)。
収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効である。
また、不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものである。したがって、この手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである。
なお、市場における不動産の取引価格の上昇が著しいときは、取引価格と収益価格との乖離が増大するものであるので、先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段として、この手法が活用されるべきである。
2.収益価格を求める方法
収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(以下「直接還元法」という。)と、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法(Discounted Cash Flow 法(以下「DCF法」という。))がある。
(1)直接還元法
P:求める不動産の収益価格
a:一期間の純収益
R:還元利回り
(2)DCF法
P:求める不動産の収益価格
ak:毎期の純収益
Y:割引率
n:保有期間(売却を想定しない場合には分析期間。以下同じ。)
PR:復帰価格
復帰価格とは、保有期間の満了時点における対象不動産の価格をいい、基本的には次の式により表される。
P=an+1/Rn
an+1:n+1期の純収益
Rn:保有期間の満了時点における還元利回り(最終還元利回り)
3.適用方法
(1)純収益
① 純収益の意義
純収益とは、不動産に帰属する適正な収益をいい、収益目的のために用いられている不動産とこれに関与する資本(不動産に化体されているものを除く。)、労働及び経営(組織)の諸要素の結合によって生ずる総収益から、資本(不動産に化体されているものを除く。)、労働及び経営(組織)の総収益に対する貢献度に応じた分配分を控除した残余の部分をいう。
② 純収益の算定
対象不動産の純収益は、一般に1年を単位として総収益から総費用を控除して求めるものとする。また、純収益は、永続的なものと非永続的なもの、償却前のものと償却後のもの等、総収益及び総費用の把握の仕方により異なるものであり、それぞれ収益価格を求める方法及び還元利回り又は割引率を求める方法とも密接な関連があることに留意する必要がある。
なお、直接還元法における純収益は、対象不動産の初年度の純収益を採用する場合と標準化された純収益を採用する場合があることに留意しなければならない。
純収益の算定に当たっては、対象不動産からの総収益及びこれに係る総費用を直接的に把握し、それぞれの項目の細部について過去の推移及び将来の動向を慎重に分析して、対象不動産の純収益を適切に求めるべきである。この場合において収益増加の見通しについては、特に予測の限界を見極めなければならない。
特にDCF法の適用に当たっては、毎期の純収益及び復帰価格並びにその発生時期が明示されることから、純収益の見通しについて十分な調査を行うことが必要である。
なお、直接還元法の適用に当たって、対象不動産の純収益を近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産の純収益によって間接的に求める場合には、それぞれの地域要因の比較及び個別的要因の比較を行い、当該純収益について適切に補正することが必要である。
ア 総収益の算定及び留意点
(ア)対象不動産が賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産である場合
賃貸用不動産の総収益は、一般に、支払賃料に預り金的性格を有する保証金等の運用益、賃料の前払的性格を有する権利金等の運用益及び償却額並びに駐車場使用料等のその他収入を加えた額(以下「支払賃料等」という。)とする。賃貸用不動産についてのDCF法の適用に当たっては、特に賃貸借契約の内容並びに賃料及び貸室の稼動率の毎期の変動に留意しなければならない。
賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益は、一般に、売上高とする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とすることができる。
なお、賃貸用不動産のうち賃借人により賃貸以外の事業に供されている不動産の総収益の算定及び賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益の算定に当たっては、当該不動産が供されている事業について、その現状と動向に十分留意しなければならない。
(イ)対象不動産が更地である場合において、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定する場合
対象不動産に最有効使用の賃貸用建物等の建設を想定し、当該複合不動産が生み出すであろう総収益を適切に求めるものとする。
イ 総費用の算定及び留意点
賃貸用不動産(ア(イ)の複合不動産を想定する場合を含む。)の総費用は、減価償却費(償却前の純収益を求める場合には、計上しない。)、維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)、公租公課(固定資産税、都市計画税等)、損害保険料等の諸経費等を加算して求めるものとする。
賃貸以外の事業の用に供する不動産の総費用は、売上原価、販売費及び一般管理費等を加算して求めるものとする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とした場合、総費用は上記賃貸用不動産の算定の例によるものとする。
なお、DCF法の適用に当たっては、特に保有期間中における大規模修繕費等の費用の発生時期に留意しなければならない。
(2)還元利回り及び割引率
① 還元利回り及び割引率の意義
還元利回り及び割引率は、共に不動産の収益性を表し、収益価格を求めるために用いるものであるが、基本的には次のような違いがある。
還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。
割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものである。
② 還元利回り及び割引率の算定
ア 還元利回り及び割引率を求める際の留意点
還元利回り及び割引率は、共に比較可能な他の資産の収益性や金融市場における運用利回りと密接な関連があるので、その動向に留意しなければならない。
さらに、還元利回り及び割引率は、地方別、用途的地域別、品等別等によって異なる傾向を持つため、対象不動産に係る地域要因及び個別的要因の分析を踏まえつつ適切に求めることが必要である。
イ 還元利回りを求める方法
還元利回りを求める方法を例示すると次のとおりである。
(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
(イ)借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法
(ウ)土地と建物に係る還元利回りから求める方法
(エ)割引率との関係から求める方法
ウ 割引率を求める方法
割引率を求める方法を例示すると次のとおりである。
(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
(イ)借入金と自己資金に係る割引率から求める方法
(ウ)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
(3)直接還元法及びDCF法の適用のあり方
直接還元法又はDCF法のいずれの方法を適用するかについては、収集可能な資料の範囲、対象不動産の類型及び依頼目的に即して適切に選択することが必要である。
ステップ0
Ⅳ 収益還元法
1.意義
収益還元法は、対象不動産が将来生み出す純収益の現在価値をもとに試算価格を求める手法であり、この価格は収益価格と呼ばれる。
賃貸用不動産や事業用不動産の評価に特に有効であり、自用不動産にも適用可能である。
また、収益価格は市場価格と乖離することがあるため、取引価格の験証手段として活用される。
2.収益価格を求める方法
収益価格の算出には、直接還元法とDCF法の2手法がある。
- 直接還元法:1期間の純収益を還元利回りで割って価格を求める
- DCF法:複数期間の純収益と復帰価格を現在価値に割り引いて合計する
3.適用方法
(1)純収益
純収益とは、総収益から総費用を控除して得られる、対象不動産に帰属する残余の利益である。
直接還元法では初年度または標準化された収益を使用する。
純収益は、将来動向や地域要因・個別的要因を反映させて補正される。
(2)総収益の算定と留意点
- 賃貸用不動産の総収益には支払賃料・保証金運用益・権利金・その他収入が含まれる
- 賃貸以外の不動産は売上高が基本
(3)総費用の算定と留意点
賃貸用不動産では、減価償却費、維持管理費、公租公課などが費用となる。
事業用不動産では、売上原価、販売費、一般管理費などを含む。
(4)還元利回りと割引率
還元利回りは直接還元法や復帰価格で使用され、将来の不確実性を含む。
割引率はDCF法で使用され、将来の収益を現在価値に割り戻すための率である。
- (ア)類似不動産の比較による方法
- (イ)借入金・自己資金ベースの方法
- (ウ)土地・建物の構成別還元利回り
- (エ)金融資産利回り+個別性加味
(5)適用選択
直接還元法とDCF法のいずれを用いるかは、資料の有無や不動産の類型、依頼目的によって判断される。
ステップ1
Ⅳ 収益還元法
1.意義
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を収益価格という。)。
収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効である。
また、不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものである。したがって、この手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである。
なお、市場における不動産の取引価格の上昇が著しいときは、取引価格と収益価格との乖離が増大するものであるので、先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段として、この手法が活用されるべきである。
2.収益価格を求める方法
収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(以下「直接還元法」という。)と、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法(Discounted Cash Flow 法(以下「DCF法」という。))がある。
(1)直接還元法
P:求める不動産の収益価格
a:一期間の純収益
R:還元利回り
(2)DCF法
P:求める不動産の収益価格
ak:毎期の純収益
Y:割引率
n:保有期間(売却を想定しない場合には分析期間。以下同じ。)
PR:復帰価格
復帰価格とは、保有期間の満了時点における対象不動産の価格をいい、基本的には次の式により表される。
P=an+1/Rn
an+1:n+1期の純収益
Rn:保有期間の満了時点における還元利回り(最終還元利回り)
3.適用方法
(1)純収益
① 純収益の意義
純収益とは、不動産に帰属する適正な収益をいい、収益目的のために用いられている不動産とこれに関与する資本(不動産に化体されているものを除く。)、労働及び経営(組織)の諸要素の結合によって生ずる総収益から、資本(不動産に化体されているものを除く。)、労働及び経営(組織)の総収益に対する貢献度に応じた分配分を控除した残余の部分をいう。
② 純収益の算定
対象不動産の純収益は、一般に1年を単位として総収益から総費用を控除して求めるものとする。また、純収益は、永続的なものと非永続的なもの、償却前のものと償却後のもの等、総収益及び総費用の把握の仕方により異なるものであり、それぞれ収益価格を求める方法及び還元利回り又は割引率を求める方法とも密接な関連があることに留意する必要がある。
なお、直接還元法における純収益は、対象不動産の初年度の純収益を採用する場合と標準化された純収益を採用する場合があることに留意しなければならない。
純収益の算定に当たっては、対象不動産からの総収益及びこれに係る総費用を直接的に把握し、それぞれの項目の細部について過去の推移及び将来の動向を慎重に分析して、対象不動産の純収益を適切に求めるべきである。この場合において収益増加の見通しについては、特に予測の限界を見極めなければならない。
特にDCF法の適用に当たっては、毎期の純収益及び復帰価格並びにその発生時期が明示されることから、純収益の見通しについて十分な調査を行うことが必要である。
なお、直接還元法の適用に当たって、対象不動産の純収益を近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産の純収益によって間接的に求める場合には、それぞれの地域要因の比較及び個別的要因の比較を行い、当該純収益について適切に補正することが必要である。
ア 総収益の算定及び留意点
(ア)対象不動産が賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産である場合
賃貸用不動産の総収益は、一般に、支払賃料に預り金的性格を有する保証金等の運用益、賃料の前払的性格を有する権利金等の運用益及び償却額並びに駐車場使用料等のその他収入を加えた額(以下「支払賃料等」という。)とする。賃貸用不動産についてのDCF法の適用に当たっては、特に賃貸借契約の内容並びに賃料及び貸室の稼動率の毎期の変動に留意しなければならない。
賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益は、一般に、売上高とする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とすることができる。
なお、賃貸用不動産のうち賃借人により賃貸以外の事業に供されている不動産の総収益の算定及び賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益の算定に当たっては、当該不動産が供されている事業について、その現状と動向に十分留意しなければならない。
(イ)対象不動産が更地である場合において、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定する場合
対象不動産に最有効使用の賃貸用建物等の建設を想定し、当該複合不動産が生み出すであろう総収益を適切に求めるものとする。
イ 総費用の算定及び留意点
賃貸用不動産(ア(イ)の複合不動産を想定する場合を含む。)の総費用は、減価償却費(償却前の純収益を求める場合には、計上しない。)、維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)、公租公課(固定資産税、都市計画税等)、損害保険料等の諸経費等を加算して求めるものとする。
賃貸以外の事業の用に供する不動産の総費用は、売上原価、販売費及び一般管理費等を加算して求めるものとする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とした場合、総費用は上記賃貸用不動産の算定の例によるものとする。
なお、DCF法の適用に当たっては、特に保有期間中における大規模修繕費等の費用の発生時期に留意しなければならない。
(2)還元利回り及び割引率
① 還元利回り及び割引率の意義
還元利回り及び割引率は、共に不動産の収益性を表し、収益価格を求めるために用いるものであるが、基本的には次のような違いがある。
還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。
割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものである。
② 還元利回り及び割引率の算定
ア 還元利回り及び割引率を求める際の留意点
還元利回り及び割引率は、共に比較可能な他の資産の収益性や金融市場における運用利回りと密接な関連があるので、その動向に留意しなければならない。
さらに、還元利回り及び割引率は、地方別、用途的地域別、品等別等によって異なる傾向を持つため、対象不動産に係る地域要因及び個別的要因の分析を踏まえつつ適切に求めることが必要である。
イ 還元利回りを求める方法
還元利回りを求める方法を例示すると次のとおりである。
(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
(イ)借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法
(ウ)土地と建物に係る還元利回りから求める方法
(エ)割引率との関係から求める方法
ウ 割引率を求める方法
割引率を求める方法を例示すると次のとおりである。
(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
(イ)借入金と自己資金に係る割引率から求める方法
(ウ)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
(3)直接還元法及びDCF法の適用のあり方
直接還元法又はDCF法のいずれの方法を適用するかについては、収集可能な資料の範囲、対象不動産の類型及び依頼目的に即して適切に選択することが必要である。
ステップ2
Ⅳ 収益還元法
1.意義
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を収益価格という。)。
収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効である。
また、不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものである。したがって、この手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである。
なお、市場における不動産の取引価格の上昇が著しいときは、取引価格と収益価格との乖離が増大するものであるので、先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段として、この手法が活用されるべきである。
2.収益価格を求める方法
収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(以下「直接還元法」という。)と、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法(Discounted Cash Flow 法(以下「DCF法」という。))がある。
(1)直接還元法
P:求める不動産の収益価格
a:一期間の純収益
R:還元利回り
(2)DCF法
P:求める不動産の収益価格
ak:毎期の純収益
Y:割引率
n:保有期間(売却を想定しない場合には分析期間。以下同じ。)
PR:復帰価格
復帰価格とは、保有期間の満了時点における対象不動産の価格をいい、基本的には次の式により表される。
P=an+1/Rn
an+1:n+1期の純収益
Rn:保有期間の満了時点における還元利回り(最終還元利回り)
3.適用方法
(1)純収益
① 純収益の意義
純収益とは、不動産に帰属する適正な収益をいい、収益目的のために用いられている不動産とこれに関与する資本(不動産に化体されているものを除く。)、労働及び経営(組織)の諸要素の結合によって生ずる総収益から、資本(不動産に化体されているものを除く。)、労働及び経営(組織)の総収益に対する貢献度に応じた分配分を控除した残余の部分をいう。
② 純収益の算定
対象不動産の純収益は、一般に1年を単位として総収益から総費用を控除して求めるものとする。また、純収益は、永続的なものと非永続的なもの、償却前のものと償却後のもの等、総収益及び総費用の把握の仕方により異なるものであり、それぞれ収益価格を求める方法及び還元利回り又は割引率を求める方法とも密接な関連があることに留意する必要がある。
なお、直接還元法における純収益は、対象不動産の初年度の純収益を採用する場合と標準化された純収益を採用する場合があることに留意しなければならない。
純収益の算定に当たっては、対象不動産からの総収益及びこれに係る総費用を直接的に把握し、それぞれの項目の細部について過去の推移及び将来の動向を慎重に分析して、対象不動産の純収益を適切に求めるべきである。この場合において収益増加の見通しについては、特に予測の限界を見極めなければならない。
特にDCF法の適用に当たっては、毎期の純収益及び復帰価格並びにその発生時期が明示されることから、純収益の見通しについて十分な調査を行うことが必要である。
なお、直接還元法の適用に当たって、対象不動産の純収益を近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産の純収益によって間接的に求める場合には、それぞれの地域要因の比較及び個別的要因の比較を行い、当該純収益について適切に補正することが必要である。
ア 総収益の算定及び留意点
(ア)対象不動産が賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産である場合
賃貸用不動産の総収益は、一般に、支払賃料に預り金的性格を有する保証金等の運用益、賃料の前払的性格を有する権利金等の運用益及び償却額並びに駐車場使用料等のその他収入を加えた額(以下「支払賃料等」という。)とする。賃貸用不動産についてのDCF法の適用に当たっては、特に賃貸借契約の内容並びに賃料及び貸室の稼動率の毎期の変動に留意しなければならない。
賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益は、一般に、売上高とする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とすることができる。
なお、賃貸用不動産のうち賃借人により賃貸以外の事業に供されている不動産の総収益の算定及び賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益の算定に当たっては、当該不動産が供されている事業について、その現状と動向に十分留意しなければならない。
(イ)対象不動産が更地である場合において、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定する場合
対象不動産に最有効使用の賃貸用建物等の建設を想定し、当該複合不動産が生み出すであろう総収益を適切に求めるものとする。
イ 総費用の算定及び留意点
賃貸用不動産(ア(イ)の複合不動産を想定する場合を含む。)の総費用は、減価償却費(償却前の純収益を求める場合には、計上しない。)、維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)、公租公課(固定資産税、都市計画税等)、損害保険料等の諸経費等を加算して求めるものとする。
賃貸以外の事業の用に供する不動産の総費用は、売上原価、販売費及び一般管理費等を加算して求めるものとする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とした場合、総費用は上記賃貸用不動産の算定の例によるものとする。
なお、DCF法の適用に当たっては、特に保有期間中における大規模修繕費等の費用の発生時期に留意しなければならない。
(2)還元利回り及び割引率
① 還元利回り及び割引率の意義
還元利回り及び割引率は、共に不動産の収益性を表し、収益価格を求めるために用いるものであるが、基本的には次のような違いがある。
還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。
割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものである。
② 還元利回り及び割引率の算定
ア 還元利回り及び割引率を求める際の留意点
還元利回り及び割引率は、共に比較可能な他の資産の収益性や金融市場における運用利回りと密接な関連があるので、その動向に留意しなければならない。
さらに、還元利回り及び割引率は、地方別、用途的地域別、品等別等によって異なる傾向を持つため、対象不動産に係る地域要因及び個別的要因の分析を踏まえつつ適切に求めることが必要である。
イ 還元利回りを求める方法
還元利回りを求める方法を例示すると次のとおりである。
(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
(イ)借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法
(ウ)土地と建物に係る還元利回りから求める方法
(エ)割引率との関係から求める方法
ウ 割引率を求める方法
割引率を求める方法を例示すると次のとおりである。
(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
(イ)借入金と自己資金に係る割引率から求める方法
(ウ)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
(3)直接還元法及びDCF法の適用のあり方
直接還元法又はDCF法のいずれの方法を適用するかについては、収集可能な資料の範囲、対象不動産の類型及び依頼目的に即して適切に選択することが必要である。
コメント